産業保健調査研究

主任研究者 香川医科大学 医療管理学 石川 澄
共同研究者 自治医科大学 公衆衛生学 中村 好一
(財)土木建築厚生会 四国支部 山崎 恵子
香川医科大学 栄養管理室 植田 哲雄
明善短期大学 川染 節江
愛知みずほ大学 西 三郎

1.はじめに

 この研究は、事業所が各地に点在し、かつ屋外における作業が中心の土木建築業に焦点をあて、(1)健康診断を有効なものとする産業保健従事者の行動目標とは、(2)対象者の健康維持および、改善の目標を達成するために有用なデータと、その提供システムはどの様な方式が求められるかを検討することにある。
 具体的には、「構造化機能連関図法」と称する独自の過程計画法によって、就労形態が健康に影響していると診られるものは、改善できることを作業仮説として、教育プログラムを作成、効果を評価するとともに、マルチメディアシステムの試作に反映した。

2.土木建築業従事者に対する健康教育の現状

(1)健康教育の総合目標の設定
 「対象者が、自己の健康に関心を持ち、それに影響する生活形態の特性を知り、自発的に問題解決の目標を定める助けになる指標を分かり易い表現で示し、専門職の助言を得て自らの生活改善に取り組むようになること」

(2)具体的行動目標の設定
 従来から行ってきた、健康管理において専門職が経験的に把握している一般的な問題点のなかから、とくに土木建築業に従事する者に目立つ問題点を、重点項目として①塩分・糖分の過剰摂取への対策(平成6年度)②肥満タイプおよび就労形態を考慮した対策(平成7年度)③食習慣の問題点の問題発見と軌道修正(平成8年度)

(3)健康教育の方略
 上記の重点項目について各年度に共通した手順を

  1. 象者の問題点を健診結果により把握する。
  2. 生活上改善が必要な一般的な対象項目を抽出する。
  3. より個別の健康異常の背景因子を明確にする。
  4. 改善点を、従来の問題提示と規制的指導ではなく、対象者が自発的に発見する。
  5. 対象者が、具体的改善策を、専門職とともに見出し実行する。
  6. 実行中の変化を継続的にモニターにする。
  7. 一定期間後、経過的に評価する。

(4)実施した健康教育評価

1. 塩分・糖分の過剰摂取への対策

【対象者】 159事業所、1099名(男841名、女258名)
【実施手順】
a.摂取状況と問題点の系統的自己評価:(問診表)
b.問題点の評価と改善目標の設定:保健婦によるフードモデルを用いた評価
c.改善行動への支援:食品の系統区分を横軸、塩分、糖分の含有量を縦軸に2次元に展開した「塩分・糖分ランキング表」
【事後のプログラムの効果の評価】(2ヵ月後)
 有問題者:627名に配布・・・回収率48%、事後の生活に変化があった者60%であった。

2. 肥満タイプおよび就労形態を考慮した対策

【対象者】 153事業所、1730名(男1284名、女446名)
【実施手順】
a.消費・摂取バランスの系統的自己評価
b.肥満の客観評価:インピーダンス法による体脂肪率とBMI値を2次元展開して、一般者にも肥満タイプを理解し易い形で提示している。
c.肥満のメカニズム、健康上の害とその改善の利益を理解し易く提示。実行可能な改善策を専門職と共に考える。
【事後のプログラムの効果の評価】(2ヵ月後)
 有問題者:1003名に配布・・・回収率30%、事後の生活に変化があった者は継続中40%、中断21%、変化なし33%であった。

3. 食習慣の問題点の問題発見と軌道修正

【対象者】 173事業所・1705名【実施手順】
a.摂取パタンの認識:レーダーチャートによる歪みの発見
b.群別必要摂取量の認識:「あなたの健康をつくる食事型紙」を作成、対象者と専門職が食品群別バランスをチェック
c.実効ある食習慣のための工夫:食品モデルを用い「目ばかり」「手ばかり」で感覚的に掴める工夫。
【事後プログラムの効果の評価】(2ヵ月後)
 有問題者:986名に配布・・・回収率25%、事後の生活の変化の具体的記載93%であった。

3.マルチメディア技術の健康教育への応用

-「健康」の良否を図る単純モデルの提案-

 糖尿病など生活病を念頭においた助言をするという目的のために、一般的に理解しやすく、具体行動につながり安いエネルギー「消費」と「摂取」(保持)のバランスを機軸にした、論理シュミレーション過程を構築した。

1. 基本生活情報

 妊産婦、年齢、入院中などを基本栄養所要量、および就労強度、時間、就労以外の身体活動、休息睡眠など生活環境指標に加味した。

2. 身体情報

 現時点の体重、および過去6ヵ月前からの変動地をベースに、主観的な「異常部位」「疲労感」「便通」および「病名」を入力後、直ちに「オウム返し」する手法、身長、体重からBMIに変換するなど二次変換により、他人との比較をする方法、されに痛みなどの異常部位を図式化、音声を組み合わせて、入力情報を印象深い形に加工して表示。

3. 生活改善目標のシュミレーション

 6ヵ月を一単位として、過去、現在、未来の視野のなかで目標とする生活スタイルをシュミレート、「生活習慣改善処方せん」をただちに入力できる。

4.考察

 個別的健康教育が成功する鍵は、個別、時系列評価と、経過を追った評価法の継続性の確立にある。 この研究対象のごとき、広域、小規模・分散し、組織立った健康管理が困難であるが、(財)土木建築厚生会四国支部では、健康教育を、系統的、年次的に集中して行っている。 その計画立案に際しては、対象者に理解されやすく、行動の変化(問題点の是正)につながる主題をとることにした。延べ5633名の土木建築従事者がこれに参加した。 一連のプログラムへの評価は、アンケートの回収率は平成6年度が最も高く、平成8年度が最も低い。
 この事から、平成6年度のは「塩分」「糖分」の過剰摂取を是正するという、具体的、単純な主題(目標)が回収率に、対象者の反応が表現されているものと解される。
 この経験を、①日常生活の時間を軸に生活行動を振り返る、とくに肥満対策を目的に、②エネルギー出納を自動的に計算して、問題点を明らかにする。 ③自分が求め、かつ実行可能な到達目標を設定して、論理シュミレーションによって目標に至るマルチメディア技術を使った支援システムの構築に反映した。 音声、画像を駆使してユーザインタフェイス機能を高めることを最大の目標としたが、細部に改良、拡充の余地がある。