産業保健調査研究

主任研究者 香川産業保健推進センター 相談員 藤井 智恵子
共同研究者 脇谷 小夜子
株式会社タダノ 安全衛生課 保健婦
香川医科大学 人間環境医学講座衛生・公衆衛生学 教授 實成 文彦
香川医科大学 人間環境医学講座 講師 武田 則昭
香川医科大学 人間環境医学講座 助手 須那 滋
合田 恵子
香川医科大学 人間環境医学講座 平尾 智広
香川医科大学 人間環境医学講座 大学院生 小倉 永子
香川医科大学 看護学科 講師 真鍋 芳樹

1.はじめに

 近年、わが国においては超高齢化社会を目前に地域保健・医療・福祉の分野で各種関連指標の確立やその健康管理活動等への展開が重要視され、包括的な対策が各種展開されている。
 また、産業保健分野においても、高齢化が問題となってきているが、地域保健行政に比較するとその取り組み等は具体的にされておらず、働き盛りの青壮年労働者の健康保持・増進に力点がおかれている現状にある。
 しかしながら、少産少死の中、高齢者の就労が求めれれることになり、特に、中小規模事業所においてはその要請が高くなることが予測される。そのため、産業保健現場においても、事業所における高齢化問題や情報管理をどのように捉え、そのための対策を度のように計画し、活動・評価していくかが重要になると思われる。
 そこで今回、報告者らは香川県下の事業所における高齢化問題と健康情報管理等について調査・検討したので報告する。

2.対象および方法等

 調査は平成9年1月10日から同年1月31日の間に行った。
 香川県下の従業員50人以上の全853事業所から、無作為抽出した400事業所に郵送にて質問票を送付し、各事業所において記入後、283事業所から返送された。(回収率:70.8%)。
 統計的解析は、各調査項目については単純集計後、従業員平均年齢(40歳未満、40歳以上)、事業所男女構成(男性<女性、女性<男性)、従業員数(500人未満、500人以上)、産業看護職雇用の有無別(産業看護職の雇用している、産業看護職を雇用していないが社外の機関〈産業医、健診機関、社会保険事業財団等〉の看護職を利用している、利用していない)にクロス集計し、カイ二乗検定を行った。

3.結果と考察

1.高齢者の健康問題・対策

「高齢者に対して何らかの対策」は、すでに講じている」12.9%、「今のところ講じていないが、今後は考えていきたい」59.2%、「今のところ講じておらず、今後も予定がない」27.9%であった。「従業員数」では多人数の事業所、「産業看護職雇用」では雇用している事業所の方がそうでない事業所に比較して「すでに講じている」などの対策を講じる傾向にあった。

「高齢者対策のうち、主たる3つの事項(複数回答)」は、「現役就業中の健康管理上の配慮」75.3%、「現役就業中の就職上の配慮」42.8%、「現役就業中の経済的配慮」33.2%の順で、以下「退職後の健康管理上の配慮」「退職後の経済的配慮」「退職後の就職上の配慮」「その他」の順であった。

「高齢者対策のうちで一番重要と考えている事項」は、「現役就業中の健康配慮」71.5%と最も多く、以下「現役就業中の就職上の配慮」「現役就業中の経済的配慮」「退職後の経済的配慮」「退職後の健康管理上の配慮」「その他」の順であった。

「高齢者の健康対策のうち主たる5つの事項(複数回答)」は、「定期健康診査」86.3%、「健康診査結果に基づく本人に対する医師による指導」66.4%、「配置変え、仕事の軽減化、職場環境改善等の労務管理上の配慮」63.1%の順で、以下主たるものは「健康診査結果に基づく本人に対する医師による日常生活等保健指導」「健康づくり(THP)等の教育、啓発活動」「心の健康づくり」「健康診査結果に基づく本人に対する保健婦・看護婦による指導」「健康診査結果に基づく家族ぐるみの医師による日常生活等保健指導」であった。

「高齢者の健康対策のうち、一番重要と考えている事項」は、「定期健康診査」43.1%、「健康診査結果に基づく本人に対する医師による指導」14.7%、「配置換え・仕事の軽減化・職場環境改善などの労務管理上の配慮」13.8%の順であった。「高齢者健康対策」のうち、一番重要と考える事項において、「定期健康診査」は事業所の従業員数が少ないものほどその割合が多く、従業員数が多いものほどその割合が少なかった。「従業員平均年齢」、「従業員男女割合」では差はなかったが、「従業員数」では多人数の事業所、「産業看護職雇用」では雇用している事業所の方がそうでない事業所に比較して「定期健康診査」や「医師による指導」などの割合が少なく、「配置換え、仕事の軽減化、職場環境改善等の労務管理上の配慮」、「健康づくり等の教育、啓発活動」、「心の健康づくり」の割合が多く、規模の大きい事業所ほど病気の早期発見・治療に併せて、職場の環境改善や心の問題等の予防にも重点を置いていることを窺わせた。

2.日常生活把握等状況

「従業員の日常生活状況」は、「今までに調査したことはない」73.3%、「最近は毎年調査している」12.1%、「今までに調査したことが1~2回ある」11.7%、「今までに調査したことが3回以上ある」2.8%の順であった。成人病が生活習慣病と考えられている現今、生活習慣は健康の保持・増進や病気の予防に重要であるが、調査してない事業所は7割以上と多く、今後の積極的な取り組みが望まれる。 「従業員数」では多人数の事業所、「産業看護職雇用」では雇用してる事業所の方がそうでない事業所に比較して「調査していない」の割合が少なく、「調査している」の割合が多く、規模の大きい事業所ほど従業員の日常生活状況の把握に努めていることを窺わせた。

「日常生活で把握したことがある内容(複数回答)」は、「把握したことがない」42.8%、「喫煙」42.3%、「体重」38.0%、「飲酒」35.6%、「運動」25.5%、「睡眠」22.1%、「ストレス」20.2%、「朝食」19.7%、「間食」12.0%、「その他」7.2%の順であった。

3.健康情報管理

「健康情報の管理状況に対して何らかの対策」は、「すでに講じている」は23.2%で、「今のところ講じていないが、今後は考えていきたい」55.2%、「今のところ講じておらず、今後も予定がない」21.6%であった。「従業員数」では多人数の事業所、「産業看護職雇用」では雇用している事業所の方がそうでない事業所に比較して「予定なし」の割合がほとんどなく、「実施中」や「検討中」の割合が多く、規模の大きい事業所ほど従業員の健康情報の管理に努めていることが窺えた。

「健康情報の管理状況の内容」は、「機関任せにしている」45.1%で最も多く、以下「全く行っていない」21.0%、「担当課で記述式で管理している」20.6%の順で、「担当課でワープロで管理している」3.9%、「担当課でコンピュータで管理している」9.4%、「担当課でコンピュータネットワーク管理している」3.9%であった。「従業員数」では多人数の事業所、「産業看護職雇用」では雇用している事業所の方がそうでない事業所に比較して「予定なし」の割合がほとんどなく、「実施中」や「検討中」の割合が多く、規模の大きい事業所ほどコンピュータによる情報管理に努めていた。なお、500人以上の事業所の4割以上がコンピュータによる情報管理を行っていたのに対し、300人以下の事業所では1割以下で事業所規模別の格差が大きいことが窺われた。

「今後の健康情報のコンピュータ管理」は、「全く行っていない」4.6%、それ以外では「必要と思うが、現状ではできない」53.6%で最も多く、以下「必要と思い、将来は行いたい」30.8%、「必要と思いすでに行っている」11.0%の順で、「必要と思わないが、すでに行っている」はなかった。「従業員数」では多人数の事業所、「産業看護職雇用」では雇用している事業所の方がそうでない事業所に比較して「必要と思わない」の割合がほとんどなく、「必要と思う」の割合が多く、規模の大きい事業所ほどコンピュータによる従業員の健康情報の管理に努める予定にあることが窺えた。一方、「全く必要と思わない」は事業規模にかかわらず1割前後あり考慮すべき課題と思われた。