産業保健調査研究

主任研究者 香川産業保健推進センター 相談員 武田 則昭
共同研究者 高口 眞一郎
香川産業保健推進センター 所長 影山 浩
氏家内科医院 院長 氏家 睦夫

1.はじめに

 労働者の健康を確保し、快適な職場環境の形成を目的に各種の喫煙対策がとられ、多くの調査研究が行われている。しかし、それらの効果については十分とはいえない状況である。
 一方、喫煙との関係が深いとされるストレス問題を職場の禁煙対策や活動と関連させて検討したものは少ない。
 以上のことより、喫煙対策をさらに効果的に進めるために、喫煙対策と職場ストレスとの関連性(個人、集団のレベル)を明確にし、従来の禁煙活動に活かしていくことが必要と考え、調査、検討を行った。

2.対象と方法

 平成12年12月、全社を挙げて計画的な喫煙対策が行われている一企業の従業員1469名を対象に、原谷らの日本語版NIOSH職業性ストレス調査を行った(回答者1431名、回収率97.4%)。
 解析は、職業性ストレスモデルに基づくそれぞれのストレス尺度(ストレッサー、仕事外要因、個人要因、緩衝要因、ストレス反応)毎に得られた得点について、 性・年齢、喫煙経験(現在喫煙、過去喫煙、無喫煙)別の検討(母平均の差の検定)を行った。
 また、職場での喫煙対策状況(介入、非介入)の職業性ストレスに与える影響についても検討した。

3.結果

  1. 対象者全員でのNIOSH職場ストレス状況
    性別、年齢階層(40>、40≦)別、喫煙経験別では、ストレス尺度の多くの事項について違いがみられた。
  2. 男全員でのNIOSH職場ストレス状況
    年齢:階層別ではストレス尺度の多くの事項について違いがみられた。
    また、40歳未満は40歳以上に比較して、喫煙経験別の違いが多くみられた。
  3. 男で年齢階層、喫煙経験を一致させた集団での、喫煙対策状況(介入の有無)別によるNIOSH職場ストレス状況
① 40歳未満

現在喫煙者では介入の有無による影響はほとんどみられず、過去・無喫煙者ではストレス尺度の少数の事項で、介入群においてストレス状態が軽い傾向が窺われた。

② 40歳以上

現在喫煙者ではストレッサーの仕事のコントロール、人々への責任、緩衝要因の社会的支援(上司)、ストレス反応の職務満足感で介入群においてストレス状態が強い傾向であったが、 その他の多くの事項では違いがないか、むしろストレス状態が弱い傾向にあった。
過去・無喫煙者ではほとんどの事項で喫煙対策の介入による影響はみられなかった。

③ 比較

40歳以上は40歳未満に比較して、喫煙対策の介入によるストレス状態について、良い面、悪い面の両方において、現在喫煙者に影響が多くみられた。

4.結論

  1. NIOSHによる職場ストレス状況は、性別、年齢別、喫煙経験別に特徴的な違いが観察された。
  2. 喫煙対策についてNIOSHによる職場ストレス状況から観察すると、40歳以上の現在喫煙者に比較的多くの影響がみられるが、一部の事項を除けば必ずしも悪影響を及ぼしていないことが推察された。
  3. NIOSHによる職場ストレス状況を把握しながら喫煙対策を推進することは、有効な展開に繋がることが期待される。
  4. 今後は、統計的棄却域にある個人についても抽出し、積極的な指導や啓発など、効果的な喫煙対策が行えるよう検討する予定である。