産業保健調査研究

主任研究者 香川産業保健推進センター 所長 影山 浩
共同研究者 香川医科大学 人間環境医学講座 教授 實成 文彦
香川医科大学 人間環境医学講座 助教授 武田 則昭
香川医科大学 人間環境医学講座 助手 須那 滋
合田 恵子
香川医科大学 人間環境医学講座 平尾 智広
香川医科大学 看護学科 講師 真鍋 芳樹
忠津佐和代

1.はじめに

 職場における健康診断は、職場において健康を阻害する諸因子による健康影響の早期発見・治療やトータルな意味での健康状況の把握・ 疾病予防などに役立つだけでなく、労働者に対して保健指導、作業管理、作業環境管理を適切に行い、労働者が常に健康的に労働できるようにすることを目的としている。
 しかしながら、一部の大企業を除くと健康診断の結果は必ずしも十分には有効利用されていない現状があるといわれている。
 一方、香川県は中小規模の事業所が多く、これらのことが懸念されているところである。
 そこで、報告者らは、上記の事項につき、それらの現状や問題点等について香川県において調査したので報告する。

2.調査の概要

 調査は平成10年3月9日から20日の間に、香川県下で、平成5年度の資料により選んだ従業員50人以上の850事業所に質問票を郵送する方法で行った。記入は保健医療担当者もしくはそれに準じる人に行ってもらい、436事業所から有効回答を得た(有効回収率51.3%)。
 調査内容は、事業所概要、定期健康診断の実施機関、実施状況、事後措置、記録保存の状況、結果の利用、負担、メリットや健康管理に対する考え方などの項目からなるが、今回はその内、健(検)診実施状況、その事後措置、結果の利用、負担感、メリット等について検討を行った。解析は単純集計を基本に行ったが、項目によっては一部、従業員数(事業所規模)、労働衛生スタッフ雇用状況等でクロス集計し、検討した。
 なお、本調査では、産業医、衛生管理者、看護職、健康づくりスタッフ(産業栄養指導者、心理相談員、産業保健指導者、ヘルスケアトレーナー、ヘルスリーダー)について、常勤・非常勤を問わずその雇用の有無で比較を行った。
 また、産業医、衛生管理者については、調査対象を従業員50人以上の事業所としたため、ほとんどの事業所に設置されていたが、看護職、健康づくりスタッフについては、従業員数の多い事業所を中心に配置されていた。
 対象事業所は、食品、一般機器・金属製品をはじめとする製造業が過半数を占めた。従業員数は50人以上100人未満の事業所が37.4%と最も多く、以下、事業所従業員数の順にほぼ事業所数は少なくなる傾向にあった(なお、調査対象事業所は平成5年度の従業員数を参考にして選んだため、従業員数50人未満の事業所が13.8%含まれていた)。

3.調査結果

1.健(検)診実施状況
① 主な実施機関

「健(検)診専門機関」が59.6%で、以下、「産業医・嘱託医」26.4%、「医療機関」8.5%、「保健所」2.5%などの順であった。

② 実施頻度

「年1回」が81.9%で、以下「年2回以上」17.2%、「複数年に1回」0.5%のなどの順であった。


③ 実施方法

「一時期に集中」が98.2%で、以下、「年間を通じて少人数ずつ」1.4%、「個別」0.2%などの順であった。
定期健康診断の受診率は、全体では平均が93.8(標準偏差10.7)%で、従業員数によって大きな違いはなかったが、労働衛生スタッフの雇用状況で看護職、産業医の有無別、つまり、それぞれ雇用している事業所で高い傾向にあった。

④ 法定項目以外の検査実施

「実施してる」は、全体で67.7%で、従業員数別には1000人以上の事業所では100%であったが、それ以外の事業所では60~70%前後でほぼ同様の傾向にあった。
項目としては、「HDLコレステロール」、「血糖値」、「胃バリウム」が50%前後で高かった。

⑤ 未受診者対策

「受診を勧める」90.6%、「特に勧めていない」7.1%などであった。

⑥ 各種検査の有所見率把握

「把握できている」は、全体では69.0%で、総じては従業員数が多い事業所でその率が高かった。
把握できている事業所について、それらの内容は「高脂血症」15.3%、「肝機能」11.5%、「血圧」11.1%、「肥満」10.7%が主たるもので、以下、「心電図」、「糖尿病」、「胸部X線」などの順であった。

2.事後措置
① 結果の通知

「平成8年度の安衛法改正以前より通知」が87.2%で、以下、「安円法改正以降より通知」10.3%、「通知せず」0.7%などであった。

② 通知の対象

「全員」が67.4%で、以下、「全員には通知せず」27.1%、「通知せず」0.7%などであった。

③ 要再検、要治療、要精検判定を受けた従業員対策

全体では94.3%が行っていた。医療機関受診の有無の確認では、全体では53.4%が行っていた。
なお、その実施率は、衛生管理者、産業医の有無別による違いは顕著でなかったが、健康づくりスタッフ、看護職の有無別、つまり、それぞれいる事業所では、いない事業所に比較して、大きく異なり確認する割合が高かった。
なお、行わない理由としては「本人の問題である」が59.3%で、以下、「時間がない」8.5%、「人手がない、結果をみればわかる」3.5%などの順であった。

④ 個別の指導

「何らかの以上のある者に行う」が58.0%で、以下、「全員に行う」10.6%、「行わない」30.0%であった。

3.結果の利用
利用の形態

ⅰ.「長期的観察を行い、リスクを比較・検討する」で「はい」は30.7%
ⅱ.「本人に対して保健衛生の向上に利用する」で「はい」は80.8%
ⅲ.「家族ぐるみの保健衛生の向上に利用する」で「はい」は20.9%
ⅳ.「地域ぐるみの保健衛生の向上に利用する」で「はい」は6.6%
であった。

4.定期健康診断の負担感
負担感の種類

ⅰ.経済的負担で「大きい」が43.3%で、以下、「少ない」31.7%、「ない」14.4%、「かなり大きい」6.7%などの順
ⅱ.人的負担で、「少ない」が48.4%で、以下、「大きい」31.0%、「ない」11.5%、「かなり大きい」4.1%などの順
ⅲ.時間的負担で、「少ない」、「大きい」が42.2%、41.2%で、以下、「ない」6.6%、「かなり大きい」6.4%などの順
であった。

5.健康診断のメリット等
① メリット

ⅰ.医療費の面では「わからない」が46.3%で、以下、「少しあった」20.4%、「あった」14.7%、「なかった」12.4%などの順
ⅱ.休日日数の面では、「わからない」が47.2%で、以下、「なかった」22.7%、「少しあった」16.1%、「あった」7.1%などの順
ⅲ.生産性の面では、「わからない」が46.8%で、以下、「少しあった」20.2%、「なかった」19.0%、「あった」7.1%の順
ⅳ.企業イメージのアップの面では、「あった」が57.1%で、以下、「少しあった」33.3%、「わからない」4.4%、「なかった」1.4%などの順
ⅴ.従業員の健康状態の把握の面では、「あった」が55.7%で、以下、「少しあった」35.1%、「わからない」4.1%、「なかった」1.5%などの順
であった。

② 健康管理に対する考え

 「社会の中の組織として当然の義務」が56.9%で、以下、「法律で義務づけられている」22.5%、「優秀な人材を確保する上で必要不可欠」10.3%、「医療費や休日日数削減につながる」6.7%などの順であった。