産業保健調査研究

主任研究者 香川産業保健推進センター 所長 影山 浩
共同研究者 産業保健推進センター 副所長 川田 昌造
香川産業保健推進センター 相談員 多田 繁昭
岡山労災病院 内科部長 岸本 卓巳

1.はじめに

 一昨年、香川、岡山両センターの共同研究として、溶接作業のレ線所見と個人曝露濃度を測定した。その結果、個人曝露濃度は予想以上に高かったが、ほぼ全員が防じんマスクを着用していた。
 マスクが適正に着用されていれば、その規格、性能から考えて、じん肺所見の出現はないものと想像される。
 一方、レ線所見の判定では、経験年数10年以下でPR1/0相当の所見のあるものが散見され、PR0/1に相当する所見のあるものは、X線所見を検討した1,540名のうち68名であった。 これは将来PR1/0に進展する可能性があるものが相当数潜在するものと推定せざるを得ない。
 そして、この事実はマスクの着用率が100%に近いこととあきらかに矛盾しており、マスクの適正な着用が、どの程度のものなのかを解明する必要があると考えた。

2.目的と方法

 溶接作業者の高いマスク着用率とレ線上10年以下の経験者でじん肺所見のあるものが出現している事実との矛盾を解明する目的で、労研式マスクフィッティングテスター(MT03型)を用いて、10事務所175名の溶接作業者について、マスクの漏れ率を測定した。
 測定にあたっては、作業中のマスク着用状態と正確に把握する目的で、作業中に、一時作業を中断してもらって測定を実施した。

3.測定結果


 図1に示すが、多少の問題はあるものの、マスク着用が有効と考えられる漏れ率5%未満のものは175名中88名約50%にすぎなかった。


一方マスクの着用方法になんらかの改善が必要と思われる10%以上の漏れ率を示すものは58名33%に達した。漏れ率の最低値は0.05%である一方で、最高値は84.75%であった。これはマスクを着用していないにひとしい値である。
 以上の成績は測定を実施した事業所でほぼ一様であって、漏れ率が低い値を維持している、つまりマスクがほぼ適正に装着されていた事業はなく、一様の成績であった。マスクと顔面の間にメリヤス布をつけている作業者がほぼ半数に認められたが、漏れ率は多少メリヤスをつけていないものの方が低いものの有意差はなかった。


漏れ率が高値を示した原因について、測定の際に、作業現場でチェックして判明したもののいくつかを提示する。


  1. 防じんマスクを10年以上にわたって同じものを使用している例があった。古いものが必ずしも性能が落ちているわけではないが、締めつけゴム紐の弾力性がなくなり、顔面への密着性が悪いものがあった。
  2. 防じんマスクの排気パッキンがこわれたものがあり、これらは漏れ率が70%以上であった。
  3. 頭巾の上からマスクを装着している例があった。

以上が著しく高い漏れ率を示した原因だが、いずれも現場で着用状態をみれば、容易に装着不良を指摘できるものであった。

4.考察と結論

  1. 接作業者で、防じんマスクの不適切な着用を認めた例は予想以上に高率であった。
  2. それらの不適切な着用状態のうち、特に漏れ率が高いものは、現場で容易にチェックできるものが大部分であった。
  3. 調査を実施した各社の衛生管理担当者は、作業時のマスク着用については充分に指導しているものと考えるが、その着用状態の適否については、ほとんど指導されていないのが現状と考える。
  4. マスク着用の適否については、一応の指導ができていれば、作業者自身で容易にチェックできるものであり、マスクの適正着用についての指導が徹底するようにのぞまれる。
  5. 今回の測定結果について、各社の衛生管理担当者を訪問して、その結果を報告した。各社とも、マスク着用の不適切な作業者が多いことにおどろき、数社については着用方法の適正化を指導した上で、マスクの漏れ率について再調査をしてほしい旨の申し入れがあった。そのうちの一社については再調査を実施した。その結果、前回漏れ率が15%以上の高率であったものの約1/3は改善されているが、再調査の際に新しく高率の漏れを示した例もあり、指導が必ずしも容易ではないことを窺わせた。
  6. 次年度には全社について再調査を行い、適正なマスク着用のために、どの様な指導が必要か、それによってどの程度に漏れ率が改着できるかを検討したい。
  7. 結論として、溶接作業者のマスク着用率は高いものの、その着用方法には大変不充分な点がある。今回の調査結果には、私自身驚きを禁じ得ない。マスクの適正な着用について精力的な指導がのぞまれる。