香川県における産業保健活動の現在価値/限界分析とその活性化に関する研究 ~縦断的検討を踏まえて~
主任研究者 | 香川産業保健推進センター 相談員 | 武田 則昭 |
共同研究者 | 香川産業保健推進センター 所長 | 竹林 治朗 |
社会福祉法人旭川荘 庶務主幹 | 川田 久美 | |
香川産業保健推進センター 相談員 | 藤井 智恵子 | |
〃 | 高口 眞一郎 |
1.はじめに
報告者らは、香川県において平成10年度(以下、平成略)に「産業医活動に関してその現状と課題、その効果的展開」について検討した。
その結果、産業医活動や産業保健活動に関して産業医と産業現場の間で、認識の相違や問題点が浮き彫りにでき、関連機関などの協力を得ながら、産業医、産業看護職、事業所衛生管理者等に対して広報、講演等を通して、その充実、改善を図ってきた。
そこで、報告者らは今回、10年度とほぼ同様のアンケート内容、対象者(産業医、産業看護職、衛生管理者)で調査を行った。得られた10、17年度両データは、産業保健活動、産業医活動状況等の相違点等に関して相互比較を行い、静、動的な観点から分析し、10年近くに及ぶ産業保健活動の活性化施策の成果や産業保健活動の現状(現在価値とその限界)・課題について検討した。
2.対象と方法等
1.調査方法(10、17年度)
【産業医】
医師会での認定産業医として登録をされている香川県下の医師381人(10年度)、467人(17年度)に調査票を送付し、それぞれ168人(回収率44.1%)、187人(回収率40%)から回答があった。
【産業看護職】
産業看護部会に登録をされている香川県下の産業看護職90人全員(10年度)、71人全員(17年度)に調査票を送付し、54人(回収率60.0%)、41人(回収率57.7%)から回答があった。
【事業所衛生管理者】
かがわ衛生管理者の集いの会員159人全員(10年度)、205人全員(17年度)、香川県下50人以上の従業員の853事業所から無作為に100事業所(10、17年度共)を抽出・送付し、衛生管理者95人(回収率59.7%)、120人(回収率58.5%)、無作為の100人では39人(回収率39.0%)、58人(回収率58.0%)から回答があった。
2.調査票
調査票の内容の詳細は当日配布予定
3.統計的解析
統計的解析は、産業医、産業看護職、事業所衛生管理者のそれぞれについて、各項目の単純集計を基本に集計した。複数回答については、各項目で単一回答に変換し、各事項について10、17年度でクロス集計を行った。
回答状況の違いは、10、17年度で、クロス集計結果について独立2群(対応なし)のm×n分割表によるカイ二乗(χ2独立性の検定:母分散の比の検定と推定2群の分散が等しいかどうか)検定を行った。本文中の%は不明・非該当を除いた割合で示した。
3.結果と考察
【回答者、事業所の背景】回答者(産業医、産業看護職、衛生管理者等)、事業所の内容、状況は、17年度は10年度に比較して、回答者で産業看護職ではやや「50~54歳」が多い、専属保健師が多く、嘱託看護師が少ないなど違いがみられた、従業員数では事業所で「1000人以上」がなくなり、200人以下の中小規模、少数化が進んだこと等を除くと、事業所等の職種、産業医、衛生管理者等の背景は総じて大きな違いはなかった。
【衛生管理体制、産業保健活動等】衛生委員会等で話し合われた内容については、平成10年には、産業医は職場巡視、健康診断、産業看護職は健康づくり、健康診断、事業所衛生管理者等は健康診断、作業環境の改善を上位に挙げていたが、17年度には、産業医は健康相談、健康診断、産業看護職は健康診断、作業環境の改善、事業所衛生管理者等は健康診断、作業環境の改善となっており、それぞれ認識している課題が異なっていた。
事業所における重点活動分野・課題は、産業医、産業看護職、事業所衛生管理者等で、それぞれ異なっており、本状況は限界点の一つといえる。健康づくりの内容では、禁煙対策が大きく注目される一方で、生活習慣病(成人病)の予防、運動とフィットネス、栄養の占める割合は低くなっており、現状といえるが、将来的には、禁煙対策以外の事項についても、積極的な対策が講じられる必要がある。これらの点については、安全委員会、衛生委員会等へ産業医が積極的に参加し、意見交換、情報交換、教育・啓発・普及を通じて、共通認識・目標設定が醸成できるよう双方向性の交流が必要である。
産業医活動に満足しているは、産業医で1割強、産業看護職で3割強、事業所衛生管理者等で3割弱であり、産業医本人よりも他職種の方が高い結果であった。
産業医活動のメリットは、17年度では、三者共、従業員の健康向上、健康を把握、職場環境の改善の順であったが、10年度に比較して、産業医は変化なし、産業看護職は職場環境が増加、事業所衛生管理者が従業員の健康向上が減少し、傾向に違いがあった。ディメリットは、17年度では、産業医、産業看護職はわからないが増加、事業所衛生管理者等は経済的負担が増加を一位に挙げていた。
以上、産業保健活動、産業医活動についての縦断的研究で「近年の動向、変化」が確認された。今回の結果は、香川県における「これからの産業保健活動の実践的な在り方、産業保健関連機関の役割」を提示しているものと推測できた。しかし、産業医の産業医活動への満足度は1割強、産業医活動を定期的に行っているは4割弱、その頻度で毎月以上は3割弱と、10、17年度を比較しても大きな変化・向上はなく、産業医活動の現状・限界点といえる。現状分析としては、産業保健活動、産業医活動について、現場は身近な活動として捉えており、その傾向は近年、強くなっている。今後は、これらの結果を踏まえながら、産業保健活動、産業医活動が職場の3管理を一層充実させ、従業員の健康向上、快適職場の実現に繋げていけるよう検討したい。