産業保健調査研究

主任研究者 香川産業保健推進センター 相談員香川医科大学・医療管理学 石川 澄
共同研究者 大塚整形外科病院 院長 大塚 裕康
香川医科大学・第2内科 阪本 整司
愛知みずほ大学・人間科学部 西 三郎
自治医科大学・公衆衛生学 中村 好一
名古屋市立大学医学部・医療情報部 宮治 眞

1.はじめに

 調査研究は、職種・作業内容の差異が健康異常の発生と事後管理の実施、およびその効果に与える影響を総合評価し、民間企業におけるTHPの具体課題を明らかにせんとした。

 この調査研究は、販売・生産・管理・開発部門がほぼ均等な人員で配置され、香川県に拠点事業所を有し、全国に72拠点で業務を展開する、従業員5281名の製造業に協力を求め(表1)、 同企業内に構築した従業員の健康データベースを利用して、対象者の自己管理と専門職による継続支援を促進するための基礎分析をおこなった。


表1:調査対象 男性社員(18歳~60歳)
人 員 平均年齢
販 売 1,552名 37.7歳
生 産 1,005名 36.9歳
管 理 1,791名 38.5歳
開 発 1,104名 34.3歳

2.健康度の分析

 定期健康診断での「医療」および専門家による「指導」を必要とする「異常発生率」は、全社平均で約33.5%、その後一年間に事後処置完了者はその内72.9%であった。

 部門別に見ると販売部門では異常発生率が高く(43.9%)、しかも異常者の51.9%がその後少なくとも一年は未処置のままで、他の三部門と比べ顕著に多いことが判明した。

 障害はおもに糖尿病や高脂血症など、栄養代謝系疾患で全体の41.4%を占め、循環器系(23.0%:主として高血圧症)とともに各職種ともに60%を超えた。さらに特徴的なのは、 販売部門において肝・胆系異常が他の部門に比して2倍以上(29.4%)で、なかでも、γ-GTTの異常値(この指標では各検査センターの95% 棄却限界上限の150%とここでは設定した)を示すものが異常者の92.3%であった。

 異常を代表にTHPの主眼は、成人病対策であることと再認識されるとともに、食生活を中心に生活習慣の評価の必要性が強く示唆された。

3.生活習慣病の分析

 そこで、成人病予防策を建てる一つの視点の評価ために、生活習慣の積み重ねに起因する背後因子の分析を問診データに基づいておこなった。

 合計103項目(身体的42項目、心理的48項目、生活習慣13項目)からなる自記式アンケートを行った。

 今回の分析は、とくに生活習慣の項目から「仕事に拘束されている時間」、「睡眠時間」、「食事に当てる時間(3食合計)」、「余暇およびその他の自由時間」の回答を抽出した。

 相対的に健康度が悪いことが客観データとして把握された販売部門は、本人が申告した「仕事の拘束時間」が平均で約1時間程度長く、食事を採る時間および睡眠時間も短い傾向にあった。しかし余暇時間は、他の部門と変わらなかった(表2)。

 健康の維持に、この余暇時間のスポーツなどへの活用の必要性も指摘されるところであるが、販売部門の従業員がそれにあてる時間は、生産部門の従業員に比し半分に過ぎず、何もしないものが多かった。 理由はさまざまであろうが、ティームを形成して、業務内容と就業時間(拘束時間)が比較的一定している生産部門に比して、個人毎に違う対外業務に従事する販売部門の、日常の生活形態全体を見通す必要がある。


表2:A社男性社員の生活行動時間
販 売 生 産 管 理 開 発
労働(拘束)〈時間〉 10.5 43 6.2 6.5
食事〈分〉 8.9 66 7.1 6.9
睡眠〈時間〉 9.2 52 7.0 6.9
余暇・その他〈時間〉 9.5 51 7.0 6.5
4.健康にかかわる個人情報のプライバシー

健康にかかわる個人情報(PHD)はプライバシーである。したがって、それを社内で本人の為に活用する意識と保護策を同時に検討する必要がある。

本研究では、PHDの企業内健康管理におけるプライバシー保護に関するフォーラムを開催、医療情報管理の専門職、法律家、保健・看護職による以下の諸点について多角的な討論を行った。

a.健康情報取扱いの場について
b.媒体について
c.利用目的の明示について
d.自己情報のコントロール権について
e.価値判断情報の取扱いについて
f.職務によるアクセス権限について
g.自己情報の開示(情報主体者からみれば閲覧)・誤り訂正請求権について
h.監査機関の設置について
i.裁定機関の設置について

5.おわりに

 以上の結果、健康の維持増進には、従来のような単なる健診の結果から、産業医などが規制と指導を繰り返す「健康管理」では効果をあげえないことが示唆され、職場環境、日常の家庭生活と、 心理と身体の調子の動きをいかに自分自身で客観視できる情報支援策を提供するかが、今後の課題と考えられた。

 さらにプライバシー保護と情報活用は一見二律背反した問題のようである。

 単なる義務観念による健康診断の受診ではなく、自己管理を基盤に置く積極的な健康維持を促進するためにも、適切なタイミングで、必要な人に正しい情報提供が不可欠であると考えられる。